レポート|ぬま塾vol.29

ぬま塾vol.29

食を切り口に持続可能なまちを目指した、スローフード活動のこれまでとこれから。

タイムライン

19:00 開会
19:05 ゲスト講話
20:25 感想共有
20:35 参加者からの質疑応答
20:45 クロージング
20:50 終了

レポート

2021年9月9日(木)にオンラインにて開催しました!
なんと定員を超えて35名の皆様にお集まりいただきました。

ゲストに、(株)男山本店 代表取締役社長/スローフード気仙沼 理事長/気仙沼商工会議所 会頭 菅原昭彦さんをお迎えし、「持続可能なまちづくり〜スローフード、そしてスローシティへ〜」をテーマにお話しいただきました。

まず冒頭は、「持続可能なまちとは?」という、本会のテーマからスタート。

持続可能なまちとは、
・地域外の力ではなく自分たちの強みを活かして地域外から稼ぎ、地域内で経済循環を創り出すこと
・生活の場として継続して維持できること
・人と人、人とまちがつながってチャレンジの循環が生まれること
つまり、世代を越えて、人間社会と環境・経済のバランスが取れた社会を目指すことだと昭彦さんは語ります。

そして、「まちづくりで大切なこと」が3つあるそうです。

1つ目が、市民が自分達が暮らす地域に愛着や誇りを持てるかどうか。
「何もない」と思っていたまちの魅力を、再発見したり、誰かに教えてもらうことで気づいていくことが大切で、この愛着や誇りが“まちづくりの基本”になってくるそうです。

2つ目が、今までこの地域で人々がどういう暮らしをしてきて、それをどうやって繋いできたかを知り、生かしていくこと。
もちろん新しい考えや技術も大切だけど、自分たちの培ってきたものに自信と誇りを持ち、それを生かして何をするかを考えないと、もうすでにやっていたことがあったり、全くトンチンカンな方向に行ってしてしまうことになりかねないそうです。

3つ目は、目的と手段を混同しないこと。
目的が明確にならなくなったり、やるにつれて目的を忘れてしまって手段ばかりに目がいってしまうことがあるそうですが、手段にとらわれず目的を最後まで忘れずにやっていくことが大切だとお話しいただきました。
この目指すべき「持続可能なまち」と「まちづくりで大切なこと」を念頭に置いた上で、これまでの気仙沼のまちづくりの歴史を振り返っていきます。

遡るは平成5年。
経済の低成長や少子高齢化の時代に突入し、その時代に対応したシステムを考えなければならなくなった頃。昭彦さん達は、それまでは政治・経済・社会のシステムを行政が担っていた時代から、自分たちが、自分たちのまちを、行政と企業の力を借りながらつくっていかなければならないと決意しました。

最初に、2〜3年かけて徹底的に「まちを知る」ことから始めました。
小学生や市民の皆さんにヒアリングを行ったり、自分たちの日常の12時間を定点で撮った写真展(200点程)を開いてみたり、再発見ツアーを行ったりすることで、自分たちのまちがどうなっているかを知っていきます。
自分たちのまちが見えてきた頃、それを行政計画で生かしていこうと、当時は先駆的だった市民参加型で「公共サイン計画」をつくっていきます。

どう人を誘導して、それをどうデザインするかを考えて、案内標識を作るという実行までを行ったこのプロジェクト。実施する上では、最後にどういう風に結論が出るのかが明確になっている“プロセスデザイン”、関係者のみではなく多様な人が参画する“参加者のデザイン”、そしてアイデアを創発しやすい雰囲気や場を作る“プログラムデザイン”の3つに丁寧に気を配り、行われたそうです。
そして、そのような市民参加を継続していく為の仕組みづくりを考えていく中で、少しまちづくりの活動が停滞していったそうです。

それは、景気の煽りを受けて参画意欲が低下したり、まちづくりが概念的になってしまって具体的にどう動いていったらいいかわからず行き詰まってしまったからでした。

それを払拭すべく考えた切り口が、どの人にも必ず関わる「食」でした。

しかし、この切り口は簡単に見つかったわけではありません。それを気づかせてくれた方の一人が、日本のトップソムリエだった木村克己さんでした。嗅覚と味覚に優れ、ソムリエ界ならず料理界でも頼りにされる存在だった方です。

そんな木村さんは、祖父が気仙沼出身ということもあり頻繁に気仙沼を訪れていました。地元の人よりも気仙沼を知り、考え、さらには気仙沼の食材を「特別だ」と褒めてくれたことから、気仙沼の食の素晴らしさに気づいたそうです。

そこから、気仙沼は、
・食を題材にしてものごとを考えること
・自然環境との共生に取り組むこと
が最適なフィールドであると確信したそうです。

では、スローフードとは何かというと、考え方や哲学のことです。ゆっくり食べることでも、スローフードという食べ物でも、ファストフードの否定でもない。自分のリズムや多様性、伝統・文化、自然、手作り、あたたかさが「スロー」の考え方です。スローとファストのバランスを取り、楽しみながら、暮らしや地域や繋がりを見直すことで、自分たちの生活や地域をより良いものにしていくことが重要なのです。

そのために、昭彦さん達は「食材を生かす食のフォーラム」「プチシェフコンテスト」「まるかじりガイドブック」「食文化の海外発信」「五感で感じるフェスティバル」等の活動を進められてきました。

このスローフードの活動の機運が高まった頃、東日本大震災が気仙沼を襲います。

震災後は復興に向けた迅速な対応が求められていたため、スローフード運動は難しい状況が続きました。ですが『海と生きる』というスローガンを掲げた気仙沼には、恵まれた自然環境と、その自然と調和した個性豊かな文化を大切にした、スローフードの精神が宿っていたと話します。

そして、2013年、気仙沼はスローシティ認証を受けました。スローシティは、スローフードの考え方に基づいた都市政策です。内湾地区は、スローシティをコンセプトにまちづくりを進めています。

最後に、「これからに必要なこと」は、多様なものを認め合う“多様性”と、縦割りだけでなく横でつながっていく“つながり”、そして自分たちの故郷、地域、仕事に“誇り”を持てるようになる為の仕掛けづくりを行っていくこと。仕掛けというのはあくまで手段であり、目的は、自分たちが暮らしやすい持続可能なまちを目指していくことだとお話しいただき、講話は終了しました。

たっぷりと濃密なインプットをいただいた後には、参加者同士で感想共有を行い、ゲストへの質問タイムも設けて、会は終了しました。

今回のお話をまとめたグラフィックレコーディング(議論を可視化したもの)では、会の内容をわかりやすくまとめていただきました!
ぬま塾vol.29

次回のぬま塾もお楽しみに~!!

参加者の声

●市民主体のまちづくりを震災より何年も前から、いろんなチャレンジをしていた事例を知り感銘を受けました!

●当たり前にある自然の恵み、海山川里の幸が気仙沼には揃っていることを改めて再認識しました。地域を元気にするというスローフードの概念を頭に入れ、バランス良く暮らしていければと思いました。今回、お話しいただいたことを仕事や生活で活かしていきたいと思います。

●市民参加のまちづくりをこんなにも早くから取り組んでいたことに驚きでした。震災後に様々なチャレンジが生まれている土壌は、地道な種まきがあったのだと感じました。菅原さんや当時から活動を続けてくださっている方々には感謝の気持ちでいっぱいです。