ぬま塾 vol.16

ぬま塾 vol.16
こんにちは。地域支援員の矢野です。
2016年12月8日(木)に、2016年最後のイベントとなる、第16回ぬま塾を開催しました。

気仙沼といえば、海。港。漁業!

ということで、今回はみなさん待望の、地元漁師さんをゲストにお招きしました。
大谷地区の沿岸漁業漁師 芳賀 孝司さん。
メカジキ突きん棒漁、イサダ漁、サケ刺網漁、タラ刺網漁など、年間を通して様々な漁をされている芳賀さん。漁だけではなく、大谷里海(まち)づくり検討委員会会長として、地域活動も積極的に行われています。

ぬま塾 vol.16

参加者は30名。会場から遠いところにも関わらず、芳賀さんの地元である本吉地域からも、数人の方が参加してくださいました。

クイズタイム

ぬま塾 vol.16

今回は初めて、講話の前にクイズタイムを準備しました。その名も『この漁具は何に使うものでしょ~か?クイズ』。
漁具をつくる、工夫・開発することが大好きな芳賀さんに、お手製の漁具を2つ、会場に持参いただき、使い方・工夫した点を話していただきました。
工夫が凝らされたアイデアあふれるお手製の漁具と、芳賀さんの巧みなトークで、会場は驚きと笑いに包まれました。

講話

ぬま塾 vol.16

漁の話から、地域との関わり方まで、ご自身の知識・経験談をお話しくださいました。
ここでは講話のポイントをいくつかご紹介します。詳しい講話内容は、後日公開予定の講話アーカイブをご覧くださいね。

  • 今朝、アワビの開口に行ってきた。アワビの開口は面白い。人によって捕れる量に差がでる。自分は漁が上手ではないので、上手な人に少しでも追いつきたいと思い、様々な工夫をしている。
  • 自分の背の低さが、小さい頃はコンプレックスだった。それを、なんとか準備で補いたいと思っていた。
  • 高校は気仙沼水産高校に通っていた。夏には、イカ釣り漁に間に合うように学校から16:00に帰宅し、お弁当を持って父と一緒に船に乗った。船の上で寝て、忙しいときはイカの箱詰めを手伝っていた。量が多いと市場で水揚げをして、船の上から学校に電話をし、「漁があったので遅刻します。」と連絡していた。
  • 自分の職業選択には悩まなかった。意識しないうちに漁師を目指していた。しかし、魚とりが下手で、コンプレックスがあった私は、常に人より早めに準備することを心掛けていた。だから、水産高校に進学を決めた。
  • 高校卒業後に父と一緒に突きん棒漁を始めた。突きん棒漁はビギナーの家庭で、周りでやっている人の話を聞いてマネしながらやっていた。1年目はメカジキを外さなかったが、2年目は外し続けていた。それがトラウマになって、体が縮こまり、思いっきり銛を投げられず、投げるタイミングも逃すという負の連鎖で、どんどんメカジキを逃がしていた。
  • 震災で残った船から、当時、失敗した原因をつづっていたメモが出てきた。毎回失敗した積み重ねを記録していたが、徐々に技術的な内容ではなく、「思いっきりやろう」「一本入魂」など精神的な内容になっていた。2年目から数年間は、舳先に立つ前にそのメモを見て、突きん棒をしていた。それが、当時、気持ちを落ち着けるための習慣だった。
  • 漁をしている理由は、1番は生活の糧を得るためだけれども、それとは別に、漁師の魅力があるからだと、職場体験に来た中学生が、捕れた魚をみて喜ぶ姿を見て気づいた。その魅力というのは人それぞれで良いと思う。海が好き、魚が好き、船が好き、魚をとるのが好きなど、何か好きな部分が無いと、漁師は出来ないのではないかなと思う。
  • 同級生に「伝統芸能の人手が足りないから」と誘われて、大谷青年会に入った。それがきっかけで、色々な人に出会い、色々な機会をいただいた。「青年会に誘われた」という、なんでもないきっかけが、これまでの人生で1番の転換点であり、そこでの出会いのおかげで充実した生活を送ることができている。
  • 気仙沼に住んでいると、たまに「気仙沼はだめだよ」という声が聞こえてくるが、それを聞くと心が痛くなる。しかし、もう少し踏み出すと、それは気仙沼のことを考えているということだと思う。「なんだか気仙沼だめだよね」の「なんだか」という漠然とした表現ではなく、「ここだめだよね」「ここをどうにかした方が良いよね」という言い方を気仙沼市民としてすべきなのではないかと思う。すると、色々なことがみえてくる。
  • 気仙沼の悪いところを、「みんなはどう思うの?」と意見を聞くと、「なるほどな。そういう考えもあるんだ」と、色々な考えを知ることが出来る。話していくうちに、「こうしたら良いよね」と共通項を見つけ出すことが出来れば、次は「それを実現する為にどうすればよいのか」ということを考えられるようになる。すると色々なことがわかってくる。「なんだか気仙沼だめだよね」と思っていたことも、見方が一方的ではなく、多方面から見ることができるようになることで、具体的な解決策を導き出すことが出来る。しかしそれは一人ではできないことで、仲間がいればいるほど、前に進んでいけるのだと思う。
  • 「嚢中の錐」。袋の中に入れられても、自分を磨いて、尖って、輝いていれば、そこから突き出ることができる。つまり、気仙沼で暮らすなかで、みなさん一人一人が自身を磨いてさえいれば、よそと遜色なく輝き、突き出ることが出来ると思う。
質問タイム

ぬま塾 vol.16

こちらも今回初となる企画、「質問タイム」。
参加者のみなさんに「ゲストに聞きたいこと」を紙に書いていただき、一斉にその紙を挙げてもらいます。その中からゲストが選んだいくつかの質問に対して、回答していただきました。

《参加者からの質問》
自分の子供にも漁師になってもらいたいと思いますか?
《ゲストの回答》
私は子供が3人いるが、自分がやりたい仕事を早く見つけてほしいと話している。心の底では漁師になってほしいと思っているけれど、無理強いして、本人に不向きなまま漁師を続けた場合、自分がいなくなった時に一人で出来るのかなと不安。好きでないのであれば難しい。「仕事は大変だからこそ、自分の得意な事、好きな事を見つけられるといいよね。みんなが好きな事を仕事にできるわけではないから、それだったら得意な事を仕事にできるといいよね。」と子供には話している。

《参加者からの質問》
好きな芸能人は?
《ゲストの回答》
吉田羊さん

《参加者からの質問》
他の地域の漁師さんを意識しますか?
《ゲストの回答》
すごく意識する。最初はよそと比べて劣等感を抱いていたが、年を取ると、だんだん「気のせいだな。どこも一緒だな。」と思うようになった。むしろよそに行くのが異文化交流のようで楽しみになった。他地域では、気仙沼とは違う方法で漁を行っているところがあり、その方法をマネしてみたら、魚がよく捕れるようになったこともある。昔は、よその漁師はおっかなくて怖かったが、今は港を探索して、気仙沼との違いを探して楽しんでいる。

イベント終了後、会場では答えられなかった質問にも、芳賀さんから1つ1つ回答をいただきました。このレポートの最後にすべて公開しちゃいます!「ゲストへのQ&A集」をお見逃しなく!

グループトーク

ぬま塾 vol.16

講話終了後、3~4人一組でお互いの感想をシェアしました。話すお題は、「自己紹介」と「今日の感想」です。
グループトークの後は、参加者2人から、全体に感想をシェアしてもらいました。

  • 漁師という仕事に、熱意と誇りをもってやられていることが、まず1番すごいと思いました。さらに、自分で道具を開発するなど、“工夫をする”ということは、すべての職種につながることだと思い、今日は勉強になりました。
  • 芳賀さんはコンプレックスを補うために自ら勉強をし、それを継続してきた結果、今ではコンプレックスを笑って話されているだけでなく、さらにそれを自分の力にしている生き方は素晴らしいと思いました。
参加者のこえ

参加者が、講義の中で「印象に残ったこと」と「学んだこと」をご紹介します。
《印象に残ったこと》

  • 話されたすべてが印象深いです。誇りと熱意をもって仕事に打ち込まれているのが伝わってきました。
  • 自分のコンプレックスからの成長や、うまくいかなかった時に紙に書いて振り返っていた話。
  • 漁師さんの話はよく聞く方だが、どれも新鮮でした。話が上手な漁師さんもいるんですね。

《学んだこと》

  • うまい人に追いつきたいなら、工夫する!
  • 今いる環境の中で最大限に工夫する。スキルで人に負けていても、準備でカバー!
  • 気仙沼だからこそ出来ることがあると思うので、それを実践したい。

とにかくお話が上手な芳賀さん。始めから終わりまで、笑いが絶えない2時間でした。そんな気さくな芳賀さんのうら側にある、仕事への情熱、努力する姿勢が、私はもちろん、多くの参加者の心に響いたようです。

ゲストへのQ&A集

(1)船酔いは克服できましたか?どうやって?
《回答》
船酔いは船に乗る際の大きな憂いの一つで、誰でも経験する嫌なものです。大抵は横になると治まりますが、船乗りはそれでは仕事になりませんから、具合に構わずとりあえず動き回るしかありません。おう吐したくなっても海なら片付けもいりませんし、もどした直後はすっきりした気持ちにもなります。お客さんとしての乗船なら、水分を取って再び横になることをおすすめしますが、そう出来ない方はもどした分を無理やりにでも胃に詰め込んで動くことが慣れる近道です。船酔いは精神的な部分も大きく、過去の辛い経験から船酔いをする自己暗示するケースもあると思われます。楽しい経験や極度の緊張した場面では船酔いを忘れてた、なんてこともよくあります。乗船前は十分に睡眠をとって適度に飲食し、燃料油や炊飯器など強い匂いをさけて風にあたったりすると良いでしょう。遠くを眺めたり、会話などで気を逸らすことも効果的かと思われます。

(2)漁師として中学生たちに伝えたい魅力はなんですか?
《回答》

  • 自身の頑張りが成果に反映される(ない場合もある)こと。
  • 漁師の持つ技術は非常時などに役立つことが多く「生きる」ことのオールラウンドプーレヤーであること。
  • 漁師しか食べられないもの、漁師しか観られない景色、漁師だけの喜びなど、漁師ならではの特権の多さ。

(3)漁師になりたい子供は減っていますか?それはなぜですか?
《回答》
減っている実感はあります。昔も今も危険な職業ですし、高度成長期の漁業全盛時と比べ、大変さに見合うだけの収入ではないことが一番の原因かと思います。ですので現実を知る漁家だからこそ勧めないケースもあると聞いたことがあります。ただ、地域によっては若者が多く着業しているところもありますし、漁師へ転職する方もいるので、収入の安定に繋がる経営と同時にやりがいや魅力をもっと伝えていく取り組みが必要かと考えます。

(4)これからの漁師の生き方について教えてください。
《回答》
漁業が持続可能な産業となるような、資源管理や自然環境、生産流通などの合理化、後継者問題などを常に意識しながら取り組んでいかなければならないと思います。あとは漁師の最も苦手な団結すること、情報を発信することなども克服すべき課題と思います。

(5)気仙沼のいちばん好きなところは?
《回答》
適度な田舎で「海と生きる」を掲げているところ、かな?

(6)いつまで漁師を続けますか?
《回答》
漁師には定年はないので、その年齢に見合った仕事内容を選ぶなどして、可能な限り続けたいと思います。家族や周りに迷惑をかけない程度に、とりあえず80歳現役を目標にします。

(7)今まで一番大きいメカジキはどれくらいですか?
《回答》
4年前の320kg。ヒレ、吻、内臓などを取り除いているので正味400kgはあったと思います。その日はすぐ近くで300kgをもう一本獲りました。ちなみに今年の最大は250kgです。
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(8)作った漁船は大体いくらですか?
《回答》
全長21m、全幅5mm、総トン数9.7㌧、エンジン808ps、総工費は約4,500万円ぐらいです。
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(9)漁船の名前の由来は?
《回答》
私の曽祖父の名前、「寶作」の宝の字から「宝洋丸」としたそうです。現在の「第八宝洋丸」は末広がりとされる漢数字の「八」と画数の良さから先代の船から引き継ぎました。

(10)突きん棒漁をする時にメカジキをどうやって発見していますか?
《回答》
船首にある高さ7mのマスト上の見張り台から、メカジキのヒレや魚影、水しぶきなどあらゆる痕跡を目視で探します。その漁場の選択は人工衛星からの情報や水温、水色、他船の漁模様からなど判断します。日焼け防止と見易いようと頬かぶりをし、足元は機動性と蒸れ対策にスニーカーを履き、海面の乱反射を緩和するためと紫外線対策に偏光グラスを掛け、日の出から日没まで目を凝らし続けています。SPF高めのクリームも使っています。
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(11)「この国に行ってみたい」国名と理由を教えてください。
《回答》
ジブリ映画に登場するような、ヨーロッパなどの生活感ある街並みを訪ねてみたいです。

(12)どんなときに怒りますか?(いつもにこやかなので、広い海にいると心が広くなるんだなと思います)
《回答》
船では怪我や事故に直結することには大声で怒鳴ります。先日の姿はよそ行き仕様で猫を被っていましたが、実は家では一番の怒りん坊です。

(13)いままで製造した漁具はどれくらいですか?
《回答》
沖に行かないときには、ほぼ網の仕立てなどの漁具の製作や手入れなどをしています。なかでも一番の大物は、被災時、鉄工所が忙しくて作ってもらえなかったので、自作したコウナゴの網を巻く機械一式かと思います。

(14)ウニの実入りはえさによって変わるというお話がありましたが、具体的にエサをどのように変えたら実入りのウニが増えたのか教えてください。
《回答》
ウニの身入り試験は、陸上のウニ蓄養施設に褐藻類、紅藻類、緑藻類、雑海藻の4種類を給餌して身の具合を比べましたが、褐藻類のアラメ、コンブを与えたものが色、味覚、容量とも一番良い結果になりました。その成果は県漁業青年実績報告大会で発表し優秀賞を受賞しましたが、詳しいデータの一切は震災で失ってしまいました。

(15)気仙沼市民として、まちづくりに取り組む若者に求めるものがあれば教えてください。
《回答》
まちづくりなどに参加し、地域を意識する皆さんが増えることを心強く感じています。目下の出来事に触れ、物事を多角的に捉えることで新しい発見や自身の考えが深まることは自己成長にもつながることと思います。自身の考えが地域全体を想ってのことなのかを自問自答しながら、信じたことはたとえ少数意見だとしても粘り強く丁寧に仲間に伝えて欲しいと思います。などと偉そうなことを言っていますが、私も実践出来ないことばかりです。そして、この機会に生まれた仲間との繋がりを大切にして欲しいと願っています。

次回のぬま塾もご期待ください!